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Mac Studio

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Mac Studioの歴史

はじめに

Mac Studioは、Appleが2022 年に新設した小型ワークステーションである。Mac miniのように小さな筐体に、Mac Proクラスの演算性能を詰め込み、デスクトップ上でプロ向けワークフローを完結させることを目的としている。Pro Workflows Teamがプロユーザーの意見を聞いて生まれた製品で、豊富なポートや静音性を重視した設計が特徴である。2025 年までに3世代が登場し、チップやメモリ容量、接続性が大幅に進化した。本稿ではMac Studioの開発背景、各モデルの特徴、ユーザー評価を振り返りながら、シリーズの歴史を整理する。

開発の背景と初代

開発の背景

2010年代後半、AppleはMac Proの熱設計が制約となりプロ市場から批判されていた。これを受けてAppleはPro Workflows Teamを結成し、映像編集者や音楽制作者、3Dアーティストなどのプロユーザーから要望を聞いた。同チームは、「Mac miniとMac Proの間に、豊富なポートを備えたパワフルなデスクトップが必要だ」との声を受け、新しい製品の設計を始めた。27 インチiMacの廃止が決まると、デスクトップ型クリエイター向けマシンの空白を埋める必要性も加わった。研究ではUSB‑Aポートが依然として必須であることや、内部に組み込めるM1 Ultraチップの熱処理が課題であることが判明した。Appleは数百回の熱流体シミュレーションを行い、筐体側面や底面に2000以上の通気孔を設けることで、静音性と高性能を両立させた。

初代Mac Studio(2022年)

2022 年3 月18 日、Appleは初代Mac Studioを発表した。高さ約3.7 inch(95 mm)、幅と奥行きが7.7 inch(197 mm)のアルミニウム製筐体は、Mac miniを2 台重ねたような姿で、「デスク上に置いて使うコンパクトなプロ機」を標榜した。初代はM1 Maxまたは新開発のM1 Ultraチップを搭載できた。
• M1 Maxモデル – 10コアCPUと最大32コアGPU、32 GBまたは64 GBのユニファイドメモリを搭載し、8 TBまでのSSDを選択できた。前面には2基のUSB‑C(Thunderbolt 4)ポートとUHS‑II SDカードスロット、背面には4基のThunderbolt 4、2基のUSB‑A、10 Gb Ethernet、HDMI 2.0、ヘッドホン端子が並んだ。価格は1,999 ドルからで、価格と性能のバランスの良さが注目された。
• M1 Ultraモデル – UltraFusionで2 つのM1 Maxダイを接続したM1 Ultraを搭載。20コアCPU、最大64コアGPU、64/128 GBメモリと8 TBまでのSSDを備え、前面ポートがThunderbolt 4に格上げされた。冷却のため内部には銅製ヒートシンクとデュアルファンを採用しながらも騒音は低く抑えられた。
初代Mac Studioは拡張性を持たない点が批判されたが、デスクトップとしては類を見ない高速SSD(読み出し9.86 GB/s)や静音性が評価された。Engadgetは、Mac Studioを「ビッグMac mini」と呼び、スリムなデザインと豊富なポート、多くのプロ向けアプリで高い性能を示す点を称賛した一方、メモリやストレージがアップグレード不可能である点やヘッドフォン端子が背面にある点を欠点に挙げた。

シリーズ展開と機種別の歴史

2023年モデル(M2 Max/M2 Ultra)

• モデル更新の概要 – 2023 年6 月5 日のWWDCで、Mac StudioはM2 MaxとM2 Ultraに更新された。同じ筐体を用いながら、M2 Maxモデルは12コアCPU、最大38コアGPU、最大96 GBメモリを搭載。M2 Ultraは2 つのM2 Maxダイを接続して24 コアCPU、最大76 コアGPU、最大192 GBメモリを実現し、前世代より最大3 倍高速となった。価格は据え置きで、M2 Maxモデルが1,999 ドル、M2 Ultraモデルが3,999 ドルからであった。
• 接続性の改善 – 新モデルはWi‑Fi 6EとBluetooth 5.3に対応し、HDMIポートがHDMI 2.1となって8K/240 Hz出力が可能になった。背面にはThunderbolt 4×4、USB‑A×2、10 Gb Ethernet、HDMI 2.1、ヘッドフォン端子があり、前面にはM2 MaxモデルでUSB‑C×2、M2 UltraモデルでThunderbolt 4×2とSDカードスロットが配置された。
• ユーザー評価 – Engadgetは、M2 Ultraの圧倒的な処理性能と32 GBメモリを標準装備する点を高く評価し、「デスク上で使えるMac Pro」と評した。一方で、フロントのThunderboltポートがUltraモデルに限定されることやアップグレード不能な構造、背面のヘッドフォン端子は依然として欠点だと指摘した。

2025年モデル(M4 Max/M3 Ultra)

• モデル更新の概要 – 2025 年3 月5 日、Appleは新型Mac StudioにM4 Maxと新開発のM3 Ultraチップを採用すると発表した。M4 Maxモデルは最大16 コアCPU、最大40 コアGPU、36〜128 GBメモリを備え、メモリ帯域幅は546 GB/sに達する。M3 UltraモデルはM3 Maxを2 つ接続した構成で、最大32 コアCPU、最大80 コアGPU、96〜512 GBメモリ、819 GB/sの帯域幅を実現し、M1 Ultra比でCPU性能が2.6倍、GPU性能が2倍高速となった。両モデルとも最大16 TBのSSDを選択できるようになり、AIモデル(600 億パラメータ規模)を完全にメモリ内で処理できると説明された。
• Thunderbolt 5とディスプレイ対応 – 2025年モデルはMac初となるThunderbolt 5を搭載し、各ポートが専用帯域を持つ設計により最大120 Gb/sのデータ転送を実現した。MacRumorsによると、M4 Max構成では背面にThunderbolt 5ポートが4基あり、M3 Ultra構成では6基に増える。前面ポートはM4 MaxモデルでUSB‑C(10 Gb/s)×2、M3 UltraモデルでThunderbolt 5×2となる。M3 Ultraモデルは最大8台の6Kディスプレイを接続でき、M4 Maxモデルは4台の6Kディスプレイと1台の4Kテレビを同時に利用できる。
• その他の仕様 – PC Watchによると、M4 Maxモデルは14コアCPU+32コアGPUまたは16コアCPU+40コアGPUで36/48/64/128 GBメモリ、最大8 TB SSDを備え、重量は2.74 kg。M3 Ultraモデルは28 コアCPU+60 コアGPUまたは32 コアCPU+80 コアGPUで96/256/512 GBメモリ、最大16 TB SSDを搭載し、重量は3.64 kg。インターフェースは共通で、背面にThunderbolt 5、USB‑A、HDMI 2.1、10 Gb Ethernet、ヘッドフォン端子を備え、前面にSDカードスロットがある。

• ユーザー評価 – Engadgetのレビューでは、M4 Maxが単体のCPU性能でトップクラスのスコアを示し、GPU性能やメディアエンコード速度も大幅に向上したと評価された。Thunderbolt 5により高速な外付けSSDや多数のディスプレイを利用できる一方、メモリやストレージ拡張は購入時のみで、M3 Ultraモデルは非常に高価であるためコスト面が課題と指摘された。Macworldは、M4 MaxモデルがM2 Max比で76 %高速、M2 Ultra比で25 %高速であることや、Thunderbolt 5による80 Gbps(映像用は120 Gbps)の帯域で外付けGPUや高速ストレージに対応できることを評価した。一方、Thunderbolt 5対応機器がまだ少なく恩恵を受けにくい点や、高価なオプション構成が批判された。

ユーザーの評価

Mac Studioは登場以来、プロフェッショナル向けデスクトップとして高く評価されている。初代から一貫して豊富なポートを搭載し、静音性を保ちながら驚異的な処理能力を提供していることが特長である。EngadgetやMacworldなどのレビューから、ユーザー評価の傾向をまとめる。

• 性能と静音性の評価 – いずれの世代でもCPUとGPUの性能が同時期のノートや一体型デスクトップを大きく上回り、動画編集や3Dレンダリング、ソフトウェア開発において大幅な時短を実現した。M1 UltraやM3 Ultraは複数のダイを接続した構造により、既存のMac miniやiMacとは比較にならないマルチスレッド性能を発揮し、発熱を抑えながら静かに動作する点が高く評価された。
• ポート構成とデザイン – Mac Studioは四方に開けた通気孔を持つ正方形のアルミ筐体を採用し、外観は「机上で映える芸術作品」とも評された。背面にはThunderboltポートやUSB‑A、HDMI、Ethernetなど多彩なインターフェースが用意され、フロントにも高速ポートとSDカードスロットがあるため、プロの周辺機器接続が容易である。この「ポートの豊富さ」は旧Mac Proでは不足していた部分を補い、多くのクリエイターから支持された。
• 弱点と批判点 – 一方で、メモリやストレージのアップグレードがユーザー側で不可能な点は全世代に共通する欠点である。長期にわたり使う場合、購入時に余裕のある構成を選ぶ必要があり、高性能構成ほど価格が跳ね上がる。特にM3 Ultraモデルは最大512 GBメモリや16 TB SSDを選択できるものの、国内価格が100万円を超えるなど非常に高価で、コストパフォーマンスが課題と指摘された。また、3.5 mmヘッドフォン端子が背面に配置されているため、頻繁に使用する人にとって不便だという意見も根強い。
• 将来への期待 – 2025年モデルではThunderbolt 5を採用し、SSDや外部GPUなど高速周辺機器との接続性が飛躍的に向上したものの、対応機器が市場に少なく、今後のエコシステム拡充が課題とされる。また、M4 Ultraが登場しなかったこともあり、今後のアップデートでM4 Ultraやさらなるプロ向け機能が追加されることを期待する声がある。

主なモデルと発売年・特徴の一覧

年代チップ構成主な仕様/特徴価格(発売当時)
2022 年3 月M1 Max / M1 Ultra・高さ 95 mm、幅×奥行き 197 mm のアルミ筐体。
・M1 Max モデルは 10 コア CPU、最大 32 コア GPU、32/64 GB ユニファイドメモリ、最大 8 TB SSD。前面に USB‑C ×2、背面に Thunderbolt 4 ×4、USB‑A ×2、HDMI 2.0、10 Gb Ethernet 等 。
・M1 Ultra モデルは 20 コア CPU、最大 64 コア GPU、64/128 GB メモリ。前面ポートが Thunderbolt 4 ×2 に変わり、冷却用に銅ヒートシンクを搭載 。
M1 Max:$1,999〜/M1 Ultra:$3,999〜 
2023 年6 月M2 Max / M2 Ultra・筐体デザインは継続。M2 Max は 12 コア CPU、最大 38 コア GPU、最大 96 GB メモリ。M2 Ultra は 24 コア CPU、最大 76 コア GPU、最大 192 GB メモリ 。
・Wi‑Fi 6E、Bluetooth 5.3、HDMI 2.1 に対応し、8K/240 Hz 出力が可能 。
・前面ポートは M2 Max モデルで USB‑C ×2、M2 Ultra モデルで Thunderbolt 4 ×2 と SD カードスロット 。
M2 Max:$1,999〜/M2 Ultra:$3,999〜 
2025 年3 月M4 Max / M3 Ultra・Thunderbolt 5 搭載。M4 Max は最大 16 コア CPU、最大 40 コア GPU、36〜128 GB メモリ、最大 8 TB SSD。前面は USB‑C ×2(10 Gb/s)、背面に Thunderbolt 5 ×4 。
・M3 Ultra は最大 32 コア CPU、最大 80 コア GPU、96〜512 GB メモリ、最大 16 TB SSD。前面は Thunderbolt 5 ×2、背面に Thunderbolt 5 ×6 。
・M3 Ultra モデルは最大 8 台の 6K ディスプレイに対応。M4 Max モデルは 4 台の 6K ディスプレイ+1 台の 4K 出力が可能 。
M4 Max:$1,999〜(約 32 万 8,800 円)/M3 Ultra:$3,999〜(約 66 万 8,800 円) 

おわりに

Mac Studio は、Mac mini と Mac Pro のギャップを埋めるために誕生し、わずか 3 年の間に複数のモデルチェンジを経て大きく進化した。初代では M1 Max/Ultra チップによって小さな筐体から驚異的な性能を引き出し、2023 年には M2 Max/Ultra により処理能力を伸ばしつつ接続性を強化した。2025 年モデルでは Thunderbolt 5 と最大 512 GB メモリにより、複数の高解像度ディスプレイや大規模 AI モデルを扱えるようになり、プロワークステーションとしての完成度を高めている 。一方で、各世代ともユーザー側でのアップグレードが不可能で、高性能構成は非常に高価である点が弱点として残る。今後は M4 Ultra やさらに大容量の SSD など、プロ市場の要望に応える進化が期待される。Mac Studio の歴史は、Apple がプロユーザーとの対話を通じて性能・静音性・接続性のバランスを追求し続けていることを示しており、今後の動向に注目が集まっている。


参考文献

Apple execs share background on designing Mac Studio and Studio Display I/O, thermals, more – 9to5Mac (2022‑03‑17)
Apple execs on developing Mac Studio and Studio Display for the other pros – TechCrunch (2022‑03‑17)
Apple Mac Studio review: Big Mac mini – Engadget (2022‑03‑17)
Apple Announces Powerful “Mac Studio” With M1 Ultra Chip and Companion “Studio Display” – MacRumors (2022‑03‑08)
Apple unveils new Mac Studio and brings Apple silicon to Mac Pro – Apple Newsroom (2023‑06‑05)
Apple Mac Studio review (M2 Ultra, 2023): A better Mac for pros – Engadget (2023‑06‑13)
Apple、Mac史上最もパワフルな新しい Mac Studio を発表 – Apple Newsroom (日本語, 2025‑03‑05)
Apple unveils new Mac Studio, the most powerful Mac ever – Apple Newsroom (2025‑03‑05)
Apple Announces New Mac Studio With M4 Max and M3 Ultra Chips, Thunderbolt 5, and More – MacRumors (2025‑03‑05)
最大512 GBメモリの新型「Mac Studio」。M4 Max/新チップの M3 Ultra 搭載 – PC Watch (2025‑03‑05)
Apple Mac Studio M4 Max review: A creative powerhouse – Engadget (2025‑03‑18)
Mac Studio (M4 Max) review – Macworld (2025‑03‑12)
M4 Max and M3 Ultra Mac Studio Review: A weird update, but it mostly works – Ars Technica (2025‑03‑10)

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