MacBookの歴史
はじめに
MacBookは、Appleが2006年から「MacBook Air」「MacBook Pro」と並ぶノートPCのラインとして展開した消費者向けモデルである。Proがプロフェッショナル向けの高性能機種、Airが極薄軽量モデルという位置付けであるのに対し、無印MacBookは教育市場や一般ユーザー向けの「ベーシックなMacノート」として企画された。2006〜2012年にかけて販売された初代シリーズ(13インチ)と、2015〜2019年に販売された12インチRetinaモデルという大きく2つの世代が存在する。ここでは各世代の開発背景やデザイン、技術的特徴、発売時期、評価、そして廃止までの経緯を詳述するとともに、復活の噂についても触れる。末尾では主要モデルの発売年や特徴を表形式で整理した。
第1世代:13インチMacBook(2006〜2012)
開発背景と目的
Appleは2006年、PowerPCからインテルプロセッサへの移行に伴い、従来の「iBook」および12インチPowerBook G4を統合する新しいノートブックラインとしてMacBookを導入した。当時のiBookより20%薄い1インチ厚の筐体で、最大5倍速い性能を実現したとされる。13.3インチの明るい光沢液晶(iBookより約79%明るい)や内蔵iSightカメラ、MagSafe電源アダプタ、Sudden Motion Sensor、スクロールトラックパッドなどを標準搭載し、白と黒の2色展開で「世界で最も先進的なコンシューマノートブック」とアピールされた。このモデルは教育市場などで人気を博し、長期間にわたりAppleのノートPC販売の中心を担った。
ポリカーボネート筐体モデル(2006〜2008)
初代MacBookは2006年5月16日に発売された。最初は32ビットのIntel Core Duoプロセッサを搭載し、後に64ビットのCore 2 Duoへ更新された。当時の特徴は以下のとおりである。
• 筐体 – 白(または黒)のポリカーボネート製ユニボディ。黒モデルは大容量HDDを採用し、標準モデルより高価であった。キーボードは凹んだアイランド型で、マグネット式ラッチとMagSafe電源コネクタを採用した。
• ディスプレイ – 13.3インチの光沢ワイド液晶を採用し、当時のAppleノートとして初めて光沢パネルを標準化した。
• インターフェース – DVDドライブ、2基のUSB 2.0、FireWire 400、Gigabit Ethernet、Mini‑DVI出力、オーディオ入出力などを装備し、メモリやHDDへのアクセスが比較的容易だった。
• その他 – 内蔵iSightカメラやAirPort Extreme(Wi‑Fi)、Bluetooth 2.0を搭載し、MagSafeコネクタによってケーブルに足を引っかけても本体が落下しにくい設計となっていた。
2007〜2008年のマイナーアップデートではCPUがCore 2 Duoに統一され、黒モデルが廃止された。統合チップセットやHDDが増強されたが、外観はほぼ変わらなかった。
アルミニウムユニボディモデル(2008年)
2008年10月14日、Appleはアルミニウム削り出しのユニボディ筐体を採用した新しいMacBookファミリーを発表した。このモデルは、それまでプラスチック製だったMacBookシリーズを大幅に刷新した。特徴は次の通りである。
• ユニボディ構造 – アルミニウム削り出しによる一体成型筐体は、従来の多部品構造を置き換え、薄型化と高剛性を両立した。Appleのジョナサン・アイブは「単一のブロックから作られたMacBookは根本的に薄く、強く、美しい」と述べている。
• NVIDIA GeForce 9400M – 新しい統合GPUを採用し、従来世代の5倍の3D性能を提供すると発表された。
• ガラス製マルチタッチトラックパッド – トラックパッド全面がクリック可能なガラス製になり、従来より約40%大きい面積でマルチタッチジェスチャーに対応した。
• LEDバックライトディスプレイ – 省電力で水銀を含まないLEDバックライトの13インチディスプレイを搭載し、エッジからエッジまでをガラスで覆ったデザインが採用された。
• 環境配慮 – 新MacBookファミリーはエネルギー効率の高いLEDバックライトと無毒化を特徴とし、EPEAT GoldやEnergy Star 4.0を満たすと強調された。
• 価格と性能 – 0.95インチ(約2.4 cm)の厚さ、4.5ポンド(約2.04 kg)の重量で、エントリーモデルは2.0 GHz Core 2 Duoと160 GB HDDを搭載して1,299ドルから販売された。
ただし、FireWire 400ポートが削除されたことは一部ユーザーの反発を招いた。2009年6月にはアップデートを受け13インチモデルが「MacBook Pro」に改名され、アルミ製の無印MacBookは半年ほどで短命に終わった。
ポリカーボネートユニボディモデル(2009〜2010)
2009年10月20日、Appleはポリカーボネート素材を用いた新しいユニボディMacBookを発表した。これは初代モデルのデザインを継承しつつ、アルミユニボディの技術を取り入れた低価格モデルであり、主な仕様は以下の通り。
• 筐体と外観 – 丸みを帯びた白いユニボディにガラス製マルチタッチトラックパッドを組み合わせ、底面に滑り止め素材を採用。重量は4.7ポンド(約2.13 kg)と軽量化した。プラスチック製ながら堅牢で、持ち運びを考慮してバックパックにも入れやすいサイズとされた。
• 内部仕様 – 2.26 GHz Intel Core 2 Duo、2 GB DDR3メモリ、250 GB HDD、NVIDIA GeForce 9400M統合グラフィックスを標準装備。1066 MHz前方バスにより性能も向上した。
• LEDバックライトディスプレイ – 13.3インチのLEDバックライト液晶により明るく省電力となり、広視野角技術を採用。
• バッテリー – 画期的な内蔵リチウムポリマー電池を採用し、公称7時間のワイヤレス作業が可能と発表された。バッテリーは最大1000回の充放電が可能で、交換費用は129ドルであると公表された。
• インターフェース – Mini DisplayPort、2基のUSB 2.0、ギガビットEthernet、アナログ/デジタルオーディオポート、AirPort Extreme 802.11n、Bluetooth 2.1+EDRなどを搭載し、光学ドライブとして8倍速SuperDriveを内蔵。
• 環境性能 – 本モデルもEPEAT GoldとEnergy Star 5.0を満たし、LEDバックライトは水銀を使用せず、内部ケーブルはPVCを含まないとされる。
• 価格 – 999ドルで発売され、教育市場や初めてMacを購入する消費者をターゲットとした。
翌2010年5月にはプロセッサの高速化とバッテリー寿命の延長(最大10時間)などのアップデートが施された。MacBookは2011年7月20日に一般販売が終了し、後継として薄型のMacBook Airがラインナップの下位モデルを担うようになった。教育機関向けには2012年2月まで販売が継続されたが、それ以降は生産終了となり、アップルがプラスチック筐体を採用した最後のMacとなった。
第1世代の総括
初代MacBookシリーズは、低価格ながら革新的な機能とスタイリッシュなデザインを提供し、AppleのノートPCラインの売り上げを牽引した。ポリカーボネート筐体モデルは教育市場で特に人気があり、アルミニウムユニボディモデルはProラインの技術を身近な価格に持ち込む役割を果たした。2009年のポリカーボネートユニボディ機は内蔵バッテリーや滑り止め底面などを採用し、Appleが環境配慮を打ち出すきっかけとなった。2011年以降、ラインナップはAirとProに集約され、無印MacBookは一旦姿を消すこととなった。
第2世代:12インチRetina MacBook(2015〜2019)
- 再登場の経緯
初代MacBook廃止から数年後の2015年3月9日、Appleは12インチRetinaディスプレイを搭載した全く新しいMacBookを発表した。このモデルは「これまでで最も薄く最も軽いMac」とされ、2ポンド(約0.92 kg)の重量と13.1 mmの厚さを実現した。Philip Schillerは「未来のノートブックの姿を示す」と述べ、従来のインターフェースを大胆に削ぎ落とした革新性が強調された。 - 2015年モデルの特徴
• ディスプレイ – 12インチのRetinaディスプレイ(2304 × 1440ピクセル)は0.88 mm厚とされ、従来のMacBook Airより30%少ない電力で動作した。
• 筐体と重さ – 厚さ13.1 mm、重さ約2ポンド。2色のアルミニウム仕上げ(スペースグレイ、シルバー)に加え、iPhone・iPadに倣ってゴールドが初採用された。
• バタフライキーボード – 従来のシザー構造に代わる「バタフライ機構」を採用し、キーごとにLEDを配置することで薄さと均一な発光を両立した。このキーボードは第1世代のMacBookにのみ搭載され、後にPro/Airにも採用されたが故障率の高さが批判された。
• Force Touchトラックパッド – 初めて感圧センサーとハプティックフィードバックを組み合わせた「Force Touch」トラックパッドを採用。物理的にはクリックせず圧力を感知して振動でクリック感を再現する。
• ファンレス設計とCore Mプロセッサ – 67%小型化されたロジックボードにIntel Core M(Broadwell)を搭載し、内部にファンを持たない完全な無音設計を実現した。これにより発熱は抑えられるが、性能はMacBook Air/Proより低かった。
• テラス型バッテリー – 本体の曲線に合わせた段差付きの「テラス型」バッテリーパックを採用し、小型筐体でも9時間のウェブ閲覧、10時間のビデオ再生を可能にした。
• インターフェース – 本体にはイヤホンジャックと単一のUSB‑Cポートのみを搭載。USB‑Cポートは充電・データ通信・DisplayPort出力を兼ねるが、Thunderboltには対応しない。MagSafeや標準USB-A端子は廃止されたため、周辺機器接続にはアダプターが必須となった。
• その他 – 802.11ac Wi‑Fi、Bluetooth 4.0を内蔵し、OS X Yosemiteがプリインストールされた。米国価格は1,299ドルからだった。
このモデルはデザイン面で高く評価された一方、Core Mプロセッサの性能不足やポートの少なさが批判された。また、バタフライキーボードは薄さと美観を追求したものの信頼性に問題があり、多くの故障報告が出た。
2016年モデルの更新
2016年4月にリフレッシュモデルが登場し、Intel Skylake世代のCore m3/m5/m7プロセッサとIntel HD 515グラフィックスを採用した。メモリは最大8 GB 1866 MHz LPDDR3に高速化され、ストレージも高速化された。また、新色としてローズゴールドが追加され、バッテリー寿命は10〜11時間とわずかに延びた。しかし基本設計は変わらず、ポートは1つのUSB‑Cのままだった。
4. 2017年モデルの更新
2017年6月には第2世代モデルが発表され、Intel Kaby Lake世代のCore m3/i5/i7プロセッサに刷新された。キーボードは第2世代バタフライ機構になり、打鍵感や耐久性が改善されたとされる。また、SSDが最大50%高速化され、最大16 GBメモリ構成も用意された。
5. 2018〜2019年の動向と廃止
2018年にはローズゴールド色が廃止されるなどラインナップの簡素化が進んだ。2019年7月9日、Appleは12インチMacBookを静かに生産終了し、新世代のMacBook Air(2018年モデル)が事実上の後継となった。この段階で無印MacBookの名称は再びラインナップから姿を消した。
6. サポート終了と「ビンテージ/オブソリート」分類
Appleは販売終了から数年経過した製品を「ビンテージ」や「オブソリート」と分類している。2015年モデルの12インチMacBookは2021年7月にビンテージ製品に指定され、部品の在庫がある場合のみ修理を受け付ける状態となった。さらに早期2016年モデルは2024年9月に「オブソリート」製品に指定され、Apple直営店や正規サービスプロバイダでは修理受付が終了した。macOSのサポートも段階的に終了し、macOS Monterey(2021)、Ventura(2022)、Sonoma(2023)以降は早期モデルへのアップデートが提供されていない。
第2世代の評価
12インチMacBookは薄さ・軽さ・静音性を徹底追求し、USB‑Cによる未来志向のデザインを提示した。しかし、単一ポートによる不便さやCore Mの低性能、バタフライキーボードの故障問題により賛否両論となり、販売数は伸び悩んだ。2019年以降、AppleはMacBook Airの薄型軽量化とApple Silicon搭載により、MacBookの役割をAirが吸収している。
復活の噂と将来展望
無印MacBookは2019年の販売終了後、Appleのノートラインから姿を消した。しかし、2020年代に入り新たな噂が報じられている。
• 12インチMacBook復活への期待 – Macworldは2025年3月の記事で、Apple Siliconの性能向上により「12インチMacBookを復活させるべき」と主張している。記事ではM4チップを搭載した超軽量ノートが実現すれば、教育市場や外出先での作業に理想的であると論じている。ただしこれは筆者の希望的観測であり、公式な情報ではない。
• 低価格MacBookの噂 – 2023年10月のMacRumorsは、サプライチェーンの情報としてAppleがChromebookに対抗する低価格の12〜13インチMacBook(700ドル前後)の開発を検討中だと報じた。販売不振となったiPadやMacBookの穴を埋めるために教育市場を狙った製品というが、量産計画は未定であると伝えている。これも現時点では真偽不明の噂である。
現在のところ、AppleはMacBook AirとMacBook Proに注力しており、無印MacBook復活に関する公式発表はない。Apple Siliconにより省電力かつ高性能なチップが実現していることから、将来的に超軽量モデルが登場する可能性はあるものの、名称が「MacBook」となるかどうかは不明である。
主なモデルと発売年・特徴の一覧
年代 | モデル・デザイン | 主な特徴(キーワード) |
---|---|---|
2006年5月 | ポリカーボネートモデル(初代) | Intel Core Duo→Core 2 Duo、13.3"光沢液晶、白/黒筐体、MagSafe、iSight、FireWire 400、Mini‑DVI |
2008年10月 | アルミユニボディモデル | アルミ削り出しユニボディ、NVIDIA GeForce 9400M、ガラス製トラックパッド、LEDバックライト、環境配慮、FireWire廃止 |
2009年10月 | ポリカーボネートユニボディモデル | 白いユニボディ筐体、LEDバックライト、ガラス製トラックパッド、内蔵7時間バッテリー、2.26 GHz Core 2 Duo、GeForce 9400M |
2015年4月 | 12インチ Retina MacBook(再登場) | 13.1 mm厚・2 ポンド、12" Retina、バタフライキーボード、Force Touchトラックパッド、Core M、テラス型バッテリー、USB‑C単一ポート |
2016年4月 | 12" MacBook (2016) | Skylake Core m3/m5/m7、HD 515 GPU、バッテリー寿命向上、ローズゴールド追加 |
2017年6月 | 12" MacBook (2017) | Kaby Lake Core m3/i5/i7、第2世代バタフライキー、SSD高速化 |
2019年7月 | 12" MacBook (終売) | ラインナップが廃止され、MacBook Air (Retina) に集約 |
おわりに
MacBookは、Appleのノートブック市場において「手頃でスタイリッシュなMac」を象徴する存在であった。初代シリーズはiBookからの移行期に一般ユーザーと教育市場を開拓し、アルミユニボディや内蔵バッテリーなど革新的な技術を普及させた。再登場した12インチモデルは極限の薄さと静音性を追求し、USB‑Cの未来像を先取りしたが、性能やキーボードの問題から短命に終わった。2019年以降はMacBook Airが薄型軽量機としての役割を担い、無印MacBookの名は再び姿を消している。今後Apple Siliconの発展や市場の要望に応じて新たな「MacBook」が登場する可能性はあるものの、現時点では噂の域を出ない。MacBookの歴史は、Appleがユーザー体験とデザイン革新を追求する過程そのものであり、その変遷を振り返ることはノートPCの進化を理解する上で貴重な手がかりとなる。
- MacBook (2006–2012) - Wikipedia
- The evolution of the MacBook – Computerworld
- Apple Unveils New MacBook With Intel Core 2 Duo Processors - Apple
- New MacBook Family Redefines Notebook Design - Apple
- Apple Updates MacBook With LED-Backlit Display, Multi-Touch Trackpad & Built-in Seven-Hour Battery - Apple
- Apple Unveils All-New MacBook - Apple
- 12-inch MacBook - Wikipedia
- Apple Adds 2015 MacBook To Vintage Mac List | Macworld
- Apple declares 12-inch MacBook from 2015 a vintage product | AppleInsider
- Apple Adds These 12 Macs to Vintage and Obsolete Products Lists - MacRumors
- Forget the M4 Air, I want Apple to bring back the plain ol' MacBook | Macworld
- Apple to Sell Low-Cost 12-Inch and 13-inch MacBooks for $700 or Less - MacRumors